コンサルタント記事

SAP社の未来戦略とは?|SAP GTMKOM 2025参加レポート

SHARE
Digital Library Digital Library Digital Library Digital Library

SAP社の未来戦略とは?|SAP GTMKOM 2025参加レポート
  • 飯田 悠紀
  • PMO戦略部 兼 PMOコンサルティング事業部 シニアマネージャー

先日私は、SAP社の主催する Go-to-Market Kick-Off Meeting Asia-Pacific 2025(SAP GTMKOM 2025)に参加するため、シンガポールを訪問しました。

SAP GTMKOM 2025とは、SAP社の2025年のビジョン、戦略、目標が共有され、連携を深めるためのミーティングです。

SAPをすでに導入されている企業様はもちろん、これからSAPの導入を検討されている企業様も、SAP社が2025年以降、どのような方針で開発・導入を進めていくのかを理解することは、社内のデータ活用における一つの指針となるのではないでしょうか。

本記事では、本ミーティングで議題に上ったトピックを中心に、今後のSAP社の動向についてご紹介します。

SAP社が目指す「世界NO.1クラウドエンタープライズソリューション」

SAP社は本ミーティングで、世界NO.1の「クラウド」エンタープライズソリューションを目指す、と発表しました。

少しだけ歴史をさかのぼると、SAP社は1972年の創業以来、大企業の基幹システムを支えるERPパッケージベンダーとして、独自の地位を築いてきました。

初めてクラウドプラットフォーム版がリリースされたのは2012年です。

それまでSAP社のビジネスモデルは、完全なオンプレミス型でした。

顧客企業は自社のデータセンターにサーバーを設置し、Oracle、IBM DB2、Microsoft SQL Serverといったサードパーティのデータベースを使用してSAPシステムを運用していました。

その後SAP社は、2010年にインメモリ型データベースの「HANA」を発表し、2021年にはグローバル全体でクラウドカンパニーへの転換を宣言しました。

これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を契機としたデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速を背景とした、大きな方向転換でした。

この戦略は市場から強い支持を得られ、全体の収益に占めるクラウド関連の割合は52%に達し、過去3-4年で5倍という驚異的な成長を記録しています。

そして2025年、SAP社は前述の通り、クラウドエンタープライズソリューションの世界No.1を目指すという明確な目標を掲げました。

この目標達成に向けた二つのソリューションが「RISE with SAP」と「GROW with SAP」です。

「RISE with SAP」とは、大企業向けの包括的なクラウドソリューションで、基幹システムのクラウド移行を支援します。

一方、「GROW with SAP」は、中堅企業向けのクラウドファーストアプローチで、クラウドネイティブなビジネス環境を素早く構築できるのが特徴です。

このようなクラウドを中心とした展開からも、SAP社がERPパッケージベンダーという従来の枠を超えて、AWS、Azure、GCPといった企業のITインフラ全体を支えるクラウドプロバイダーへと、その立ち位置を大きく変えようとしていることが分かります。

販売戦略の中心はパートナー企業へ

今回のミーティングで示された重要な方針の一つが、販売戦略の大きな転換です。具体的には、これまで以上にパートナー企業が販売の主軸となります。

従来、大企業向けサービスはSAP社の直接販売が中心でした。しかし、同じく大企業向けである「RISE with SAP」においては、案件の半数以上をパートナー企業が担当する方針へとシフトします。

さらに、中堅企業向けの「GROW with SAP」では、基本的にパートナー企業主導での展開が前提となります。

顧客との直接的な接点をパートナー企業に委ねることで、SAP社の強みである製品開発とプラットフォームの強化に、経営資源をさらに集中させることが狙いです。

製品戦略としてのクリーンコア思想と、AI技術の統合

次はSAP社の製品戦略です。今回のミーティングで強調されていたのは「クリーンコア」思想とAI技術の統合です。

クリーンコアとは、ERPシステムをできるだけ標準的な形で維持し、カスタマイズを最小限に抑えるという考え方です。これにより、システムのアップデートや保守が容易になり、継続的な機能強化の恩恵を受けやすくなります。

一方、AI技術の統合では、自社開発のAIコパイロット「Joule」(ジュール)がSAP S/4HANA Cloud Public Editionに統合されました。Jouleは、コストセンターのレビューや財務データの解釈支援など、複雑な理解が求められる領域での活用も見込まれています。

また、新たに発表されたのは「SAP Business Data Cloud」です。従来、企業がAI開発を行う際は、SAPのデータを外部のクラウド環境(AWSやAzureのデータレイク等)に移す必要がありました。

しかし、構造化されたデータを一旦フラットな形に変換し、外部環境で分析を行うというプロセスは、コストとセキュリティの両面で課題があったのです。

SAP Business Data Cloudは、SAPシステム内のデータを外部に移動することなく、高度な分析やAI処理を実現する基盤として位置づけられています。

このように、SAP社は基幹システム自体の技術開発を進めながら、最新テクノロジーの統合を進めることで、クラウドエンタープライズソリューションとしての競争力を高めようとしています。特にAI技術の統合においては、データの外部流出を最小限に抑えつつ、高度な分析が可能です。

SAP社のビジネスモデル転換の影響

SAP社が進めるERPパッケージベンダーからクラウドエンタープライズソリューションプロバイダーへの転換は、市場にも影響があります。

特に注目すべきは、SaaS市場の一般的な潮流とは異なるアプローチを取っている点です。

通常のSaaSが「使いやすさ」「導入のしやすさ」「切り替えのしやすさ」を特徴とするのに対し、SAP社は企業のITインフラ全体を包括的に提供する戦略を選択しました。

この戦略を実現するため、SAP社は製品開発に経営資源を集中させ、営業・サービス機能をパートナー企業に移管するという、大胆な組織改革を進めています。

この改革において、従来以上に重要な役割を担うのが、パートナー企業です。

顧客企業の真のニーズを理解し、その実現に向けて伴走できる存在であること。そして、SAP社が目指す方向性を理解した上で、独自の価値を付加できる存在であること。

私たちノムラシステムコーポレーションは、この変革を前向きに捉えています。

お客様が実現したいことを理解し、その目標達成を支援すると同時に、今後は、GROW with SAPのテンプレート開発、AIソリューションの実現をさらに強化していく予定です。

SAPの導入は、企業のデジタル基盤を包括的に整備できる一方で、それだけの投資が必要となります。

私たちは、本当に導入が必要なのかを含め、お客様の事業モデルや収益構造を深く理解した上で、5年後、10年後を見据えた提案をさせていただきます。

このような提案を実現するためにも、私たちも自社の方向性や戦略を積極的に開示し、お客様と「仕事を依頼する」「仕事を受注する」という単純な関係を超えたパートナーシップを築きたいと考えています。

まとめ:SAP GTMKOM 2025を振り返って

今回のミーティングでは、改めてSAP社はERPパッケージベンダーからクラウドエンタープライズソリューションプロバイダーへと転換する方針をメッセージとして出しています。

企業のITインフラ全体を包括的に提供するという戦略を実現するため、SAP社は製品開発への経営資源の集中と、営業・サービス機能のパートナー企業への移管という大胆な組織改革を進めているように感じました。

弊社もこの変革を前向きに捉え、お客様のビジネス成長を支援するための新たな取り組みを強化しています。

今後もお客様に最適なソリューションを提供することで、デジタル変革の実現に貢献していきます。

SHARE
Digital Library Digital Library Digital Library Digital Library
お問い合わせ