PMO
PMOの役割とは?PMとの違いや導入するメリット、ポイントを解説
大きなプロジェクトになるほど、プロジェクトの複雑さが増して業務範囲も広がり、コミュニケーションの負担も大きくなります。
それに伴い、リソースやコストの調整が難しくなるため、プロジェクトマネージャー(PM)への負担も増加します。
PMの業務が増えるほど、進捗が滞るばかりかプロジェクトが失敗する可能性も大きくなるため、注意が必要です。
そこでPMへの負担を軽減し、プロジェクトを円滑に進めるために「PMO」の導入を検討している方も多いのではないでしょうか。
本記事ではPMOの役割やPMとの違い、導入するメリットについて詳しく解説します。
PMOとは「PMを支援する組織・部門」
PMO(Project Management Office)とは、企業内におけるプロジェクトマネジメントを、部署の枠を超えて横断的に支援する部門や構造システムのことです。
簡単に理解するならば「PM」を補助する組織や体制と理解しておくとよいでしょう。
ただし文脈次第では、PMOに所属するPMOコンサルタント人材を指す言葉としても使われます。
PMの仕事は多忙です。
プロジェクトを管理する上で、品質(Quality)、費用(Cost)、納期(Delivery)を満たす責任があり、特にプロジェクトの規模が大きい場合は、非常に作業工数がかかってしまいます。
PMOは、そうしたPM業務の一部を担う役割を持っています。
PMOとPMの違いは「立ち位置」
PMOとPM(プロジェクトマネージャー)はプロジェクトに対する「立ち位置」が異なります。
PM(プロジェクトマネージャー)はプロジェクトの責任者です。
プロジェクトを成功させるため、さまざまな重要事項をスピーディーかつ正確に決定する責任があります。
一方、PMOは黒子としてPMをサポートする立ち位置です。
PMが最大限のパフォーマンスを発揮でき、プロジェクトが成功できるようにサポートする役割を担っています。
PMについては以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
関連記事:プロジェクトマネジメントとは?重要性や手順、注意点について解説|Digital Library
PMOが注目を集めている社会的背景
出典:ITR Market View:予算・経費・プロジェクト管理市場2021
PMOが注目される社会的背景として、近年ではプロジェクトの規模が大きくなり、中小規模のプロジェクトも含め数が増加していることが挙げられます。
PMは、IT業界におけるシステム開発プロジェクトの責任者として知られてきました。
現在ではIT業界以外でもプロジェクト単位での動きが増加し、規模の拡大も見られます。
そのため、プロジェクトを率いるPMの業務負担増加や、スキルの偏りによるプロジェクトマネジメント品質の低下が問題視されています。
PMOを導入することで、そのような問題の解決が可能です。
複雑化するビジネスプロジェクトを円滑に進めるためには、PMOが欠かせないといえます。
PMOの活動アプローチの種類とそれぞれのメリット・デメリット
PMO活動には以下3つのアプローチがあります。
それぞれの種類とメリット・デメリットについて、確認していきましょう。
- 支援型(助言型)のアプローチ
- コントロール型(管理型)のアプローチ
- 指揮型のアプローチ
支援型(助言型)のアプローチ
支援型のアプローチのPMOは、PMからの要請に応じて、具体的な課題解決策の提案、リスクの分析、プロジェクト計画の調整支援、進捗状況の評価などを行います。
これにより、PMが抱える課題に対して、専門的な知見や客観的な視点から助言を行い、プロジェクトの円滑な遂行をサポートします。
支援型アプローチのメリットとしては、PMOに与えられた役割が助言に限定されており、実行や決定を行わないため、責任の範囲がはっきりしてわかりやすい点が挙げられます。
ただ、PMOの助言のタイミングをPMが判断できなければ、プロジェクトの問題やリスクが未解決のまま進行してしまい、結果としてプロジェクトの成果や進捗に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
このアプローチは、経験が少なく、スキルに自信がないPMに適しています。
コントロール型(管理型)のアプローチ
PMOにおけるコントロール型のアプローチでは、PMと協力しながら、情報の収集、管理、統括を行い、プロジェクトの運営を支援します。
例えば、PMOが各チームから進捗報告を集め、それを集約してPMに報告することで、PMがプロジェクト全体の進捗を把握できるようにします。
また、リスクや課題が発生した場合には、PMOがその情報をいち早くキャッチし、PMに共有して迅速に対策を講じることが可能です。
このアプローチは、プロジェクトの規模が大きかったり、範囲が広がりすぎたりして、PMが全体を把握しきれない場合でも円滑にプロジェクトを円滑に進めることができます。
ただし、PMがPMOに依存しすぎると、PM自身がプロジェクト全体を把握できなくなるリスクがあるため注意が必要です。
このリスクを避けるためには、PMとPMOの役割を明確に定義し、両者が連携して進捗管理を行うことが重要です。
指揮型のアプローチ
PMOにおける指揮型アプローチとは、PMOがプロジェクトに直接介入し、全体の指揮を執る手法です。
このアプローチは、プロジェクト内で問題が発生したときや、若手のPMを育成する際に効果的です。
ただし、通常のプロジェクトではPMの役割が希薄されてしまうため、あまり採用されることはありません。
PMO組織におけるバリエーションの種類
PMOの役割や活動内容は、プロジェクトの課題によって大きく異なります。
そのため、プロジェクトをスムーズに進めるためには、PMO組織をどこに配置するかが重要です。
例えば、特定のプロジェクトに対してのサポートが必要な場合には「プロジェクト事務局型」、組織全体で統一したプロジェクト管理のルールや手法を確立し、複数のプロジェクトを一貫して推進する必要がある場合には「全社型」が有効です。
また、プロジェクト単位と全社の両方での連携が求められる場合には「ハイブリッド型」が適しています。
社会の変化に伴って変容・発展し続けているPMOの種類
PMOの種類は外部環境に伴って形を変え続けています。
現在注目されている以下のPMOの種類を確認しておきましょう。
- 欧米で主流になっている「EPMO(Enterprise PMO)」
- アジャイル組織で求められる「アジャイルPMO」
欧米で主流になっている「EPMO(Enterprise PMO)」
欧米で主流となっている「EPMO(Enterprise PMO)」は、全社型PMOの一つです。
EPMOは、プロジェクト全体の状況を広い視点で把握し、投資判断やマネジメントなどを担う上流組織として位置づけられています。
EPMOの主な役割には、組織内のリソースに基づいて実施するプロジェクトの選別、投資配分、さらにプロジェクトの継続や、中断に関する意思決定が含まれています。
これらの重要な役割を通じて、組織全体の最適な運営を支援します。
アジャイル組織で求められる「アジャイルPMO」
アジャイルPMOには、アジャイルマニフェストの理念を組織全体に浸透させることが求められます。
アジャイルマニフェストとは、ソフトウェア開発における柔軟性や迅速な対応を重視するために掲げられた原則のことです。
通常、アジャイルは10名以下の小規模なチームで始めるケースが一般的です。
しかし、プロジェクトが大規模化すると、組織全体でアジャイルを適用する「スケーリング」が必要となります。
その際、複数のチームが効果的に連携できるよう、組織設計やチーム間の調整が求められます。
そのため、アジャイルPMOにはスケーリングの推進や組織設計、そしてチーム間の調整力が特に重視されるケースが多くなります。
PMOに求められる具体的な4つの役割・仕事内容
PMOが担当する具体的な役割や業務には以下のようなものがあります。
- PMの体制を標準化させる
- PM人材の育成を促進させる
- プロジェクトにおけるリソース・コストを調整する
- PMの実務を補填する
1つずつ解説します。
PMの体制を標準化させる
PMOは企業内におけるPMの体制を標準化させます。
標準化とは、PMの属人化やプロジェクトでの抜け漏れを防いで、管理体制を均一化させることです。
例えば、プロジェクトマネジメントの世界的な基準としてPMBOKやISO21500があります。
この2つを押さえたうえで、現場に沿ったマニュアル化・品質の統一を実現させます。
参考:ISO 21500:2012 Guidance on project management|国際標準化機構
参考:JIS Q 21500:2018 プロジェクトマネジメントの手引|一般財団法人 日本規格協会
PM人材の育成を促進させる
PMOが担当する業務の1つが、プロジェクトマネジメント人材の教育、社内定着化です。
その際、現行のPMがいなくなっても問題ないよう、人材開発を行うことが必要です。
PMは複数のプロジェクトを経験しただけではなく、基本的なプロジェクトマネジメントの知識やスキルを身に付ける必要があります。
PMOの持つ知識や豊富な経験に基づくサポートとアドバイスが、PMの知識レベルやスキルを向上させます。
プロジェクトにおけるリソース・コストを調整する
PMOの役割として欠かせないものが、プロジェクトにおけるリソースやコストの調整です。
プロジェクトチームに必要な人材のアサインや勤怠管理、プロジェクトにかかる予算などを、PMに代わり調整します。
このほか、業務効率化につながるツールやシステムの選定なども、PMOの果たす役割です。
プロジェクトツール、システムの導入で、リソースやコストの削減にもつなげられます。
数字の管理はプロジェクトの成功に直結するため、PMOはPMだけでなく経営層とのやり取りも求められます。
PMの実務を補填する
PMへの支援だけではなく、実務を補填することも、PMOの重要な役割です。
プロジェクトに関する資料作成や進捗管理、メンバーの勤怠管理、会議の調整やファシリテーションなど、PMだけでは対応しきれない業務をPMOが受け持ちます。
PMは、PMOの的確な業務補填によって、リーダーとしてのポテンシャルを存分に発揮できるようになります。
業務内容別で分けられる3つのPMO職種
PMOの業務は多岐にわたるため、組織内で役割が分かれています。
それぞれの職種と担当する業務を解説します。
- PMOアドミニストレータ|事務管理
- PMOエキスパート|クオリティ管理
- PMOマネージャー|戦略策定
PMOアドミニストレータ|事務管理
PMOアドミニストレータはプロジェクトに関する事務的な業務を担当し、社内プロセスを円滑に進める役割です。
以下のような業務を担当しています。
- 資料作成
- 情報共有
- 会議コーディネーション
- 経費処理
- プロジェクトメンバー勤怠管理
PMOエキスパート|クオリティ管理
PMOエキスパートは、環境整備やルールの策定、プロジェクトのクオリティを管理する役割です。
以下のような業務を担当しています。
- プロジェクト管理のためのプロセス策定および標準化
- 情報定義策定および標準化
- 社内プロジェクトツールの開発および標準化
- プロジェクト利害関係者との調整
- プロジェクトマネジメント教育およびサポート
PMOマネージャー|戦略策定
PMOマネージャーは、PMOのマネジメントだけでなく、企業の経営層とPMの間に立つことも多い役割です。
以下のような業務を担当しています。
- PMOの組織戦略および計画策定
- PMOメンバーの勤怠管理
- PMO組織の予算管理
- プロジェクト継続判断および投資判断
PMOを導入することで得られるメリット
PMOの導入で得られるメリットを、以下の目線でそれぞれ解説します。
- 企業経営目線でのメリット
- プロジェクトを進行する現場目線でのメリット
企業経営目線でのメリット
PMOの導入により、企業経営において以下のようなメリットが期待できます。
- 経営戦略のより確実な履行、ビジネス価値の最大化
- プロジェクトマネジメントの環境整備、手法・知識標準化、人財の安定的育成
- プロジェクト進捗・状況の「見える化」および確認の最適化
- プロジェクト優先順位付けおよび経営判断の迅速化
- プロジェクトへの経営者支援工数の軽減
作業の標準化や進捗の見える化、そして人材の確保・育成は、プロジェクトの効率的な進行と成功に欠かせない要素です。
このメリットを通じてPMは、リアルタイムで状況を把握し、適切な判断を迅速に行うことができるようになります。
プロジェクトを進行する現場目線でのメリット
PMOを導入することで、現場でのプロジェクト進行において、以下のようなメリットがあります。
- プロジェクト教訓やベストプラクティスの共有による品質向上と作業効率化
- リソースの迅速確保
- スケジュール・スコープ・コスト・リスクの管理強化
- メンバーやステークホルダーとのコミュニケーション改善
現場では、品質の向上・作業内容の明確化・納期管理が特に求められます。
PMOを活用することで、これらの要求を満たすことができ、プロジェクトの成功に貢献します。
PMOを導入する際の2つの注意点
PMOを導入するにあたっては、以下の2点に注意しましょう。
- チーム内での関係性や雰囲気づくりに気を配る
- コストに対する費用対効果を常に意識する
チーム内での関係性や雰囲気づくりに気を配る
PMOは、状況によってはチーム全体を指揮したり指導したりする役割を担います。
しかし、威圧的だとメンバーが萎縮してしまい、情報共有がスムーズに進まなくなる可能性があります。
そのため、日頃から積極的にコミュニケーションを図り、気軽に情報を共有しやすい雰囲気づくりを心がけましょう。
コストに対する費用対効果を常に意識する
PMOを導入する際には、コストに対する費用対効果を常に意識することも重要です。
人件費や外注費などのコストが発生するため、それに見合った成果が得られなければ意味がありません。
そのため、導入の目的を明確にし、意図をしっかりと持ちながら進めましょう。
また、費用対効果を正確に判断するためにも、導入後も定期的に対象プロジェクトの生産性がどの程度向上したか、ミスや不具合が減少したかを評価することも大切です。
PMOを導入する際に知っておきたいポイント
PMOを導入する際に知っておきたいポイントとして、以下が挙げられます。
- 社内PMOと社外PMOの相違点
- PMOに求められるスキル
- PMOの認定資格
- PMOの導入費用
上記を事前に押さえて、PMOの導入を検討しましょう。
社内PMOと社外PMOの相違点
社員で組織した社内PMOと社外の専門家で構成される社外PMOには、以下のような相違点があります。
<社内PMO>
- 社内の手続きを熟知している
- 若手PMへ生きたアドバイスができる
- PMOが先輩の場合、PMOの判断に頼りがち
<社外PMO>
- プロフェッショナルなPMOならではの知識や経験に頼れる
- 第三者として中立公平な支援ができる
- 社内PMOでは思いつかないアイデアを得られる
社内に高いスキルを持つPMが複数いる場合は「社内PMO」でもよいですが、社内PMの人数や経験において不安が残る場合は「社外PMO」の利用がおすすめです。
PMOに求めるスキル
社内PMOの人選やアウトソーシングする際には、主に以下のようなスキルの有無を確認しておきましょう。
- 文書作成スキル
- 事務管理能力
- 時間管理能力
- 各関係者との折衝・調整スキル
- コミュニケーション能力
- 論理的思考力
- 進捗管理力
- 数値化スキル
- PM・PMO経験
- 経営センス
- ITリテラシー
- 現場での実務スキル
- 英語力・海外での折衝
PMOの事務管理を担当する「アドミニストレータ」には文書作成スキルや時間管理能力、クオリティ管理を担当する「エキスパート」には利害関係者を調整するスキルや進捗管理力が必要です。
戦略策定を担当するマネージャーはPMO組織だけでなく複数のプロジェクトを統括するため、豊富な経験と経営センスが欠かせません。
PMO認定資格の有無
PMOの認定資格には、国内資格だけでなく世界で通用する国際資格があります。
PMOは資格を取得せずに活動することも可能な一方、資格を持つことは知識の裏づけ、権威づけでもあります。
組織統率のためにも、社内PMOには取得を促し、アウトソーシングする際は資格保有者を選ぶとよいでしょう。
- プロジェクトマネジメント・アソシエイト認定資格(PJM-A):日本PMO協会が認定する新人PMOの登竜門といえる資格です。
- PMOスペシャリスト認定資格(PMO-S):PJM-Aと同じく日本PMO協会が認定する、国内で最も権威のある資格です。
- PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル):アメリカにあるPMI本部が認定し、世界で通用する国際資格です。
PMO導入費用の目安
PMOを外部企業に依頼したときの導入費用は、月額で100万円前後からが相場です。
担当する業務を切り離した部分的な依頼や、週2〜3日のみやオンラインなどの形で依頼することで、費用を抑えられるケースがあります。
会社員PMOの年収は700万円前後、フリーランスPMOの場合は1,000万円程度で、案件によっては2,000万円を超えることもあります。
社内でPMを組織する際は、PMあるいはPMO資格の取得報償金として10万円前後、資格手当では月額2万円前後の支給が一般的です。
PMOの役割はPMを支援してプロジェクト成功率を向上させること
PMOはPMの支援を通じて、プロジェクトの成功率を高めます。
企業において、未来の利益を創造するプロジェクトの成功率向上は、経営戦略の最重要課題といえるでしょう。
PMをサポートし、プロジェクトの成功を縁の下で支える組織がPMOです。
PMOは社外へアウトソーシングすることも可能です。
プロジェクトの成功率向上を目指す方は、PMO導入を検討してみましょう。
ノムラシステムコーポレーションでは、PMOによる業務支援や、DXによる業務効率化などに対応しています。
ぜひお気軽にご相談ください。