コンサルタント記事

競争力を高める標準化と目的化した標準化の違い|DXの現場

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競争力を高める標準化と目的化した標準化の違い|DXの現場
  • 鈴木 一聖
  • PMOコンサルティング事業部 執行役員

「DXの現場」では、ノムラシステムコーポレーションの現役コンサルタントが、SAPの導入をはじめ、DXに20年以上携わった経験から、DXで重要となるポイントについて紹介します。

今回のテーマは「業務プロセスの標準化」です。

近年、業務プロセスの標準化が主流になりつつあります。しかし、標準化自体が目的となってしまうと、本来の目的であったはずの競争力の獲得に至らないことがあります。

効果的な標準化を実現するには、まず現状の業務プロセスを理解することが重要です。本記事では、私の経験をもとに標準化に不可欠な「業務プロセスの整理」について解説します。

業務プロセス標準化の落とし穴

近年、システム導入においては、ツールに合わせて業務プロセスを標準化する「Fit to Standard」が主流になりつつあります。

業務プロセスの標準化によって得られるメリットは多岐に渡ります。

  • 作業手順の明確化による処理スピードの向上
  • プロセスの統合による生産ラインのスリム化
  • 品質の安定性
  • 属人性の解消
  • 情報共有の促進
  • 新入社員の育成効率化 など

こうした効果が期待できることから、多くの企業が標準化に取り組んでいます。

一方、標準化を進める過程で本来の目的を見失ってしまうケースも目にしています。「標準化すれば全て解決する」という思い込みは、かえって企業の競争力を損なうことさえあるのです。

この「標準化の落とし穴」について、解決策をお伝えする前に、まずは以前私が関わった食品メーカーの事例をご紹介します。

【事例】食品メーカーの標準化

以前、ある食品メーカーでツールの構築・導入に伴う業務の標準化に取り組んだ経験があります。このメーカーが抱えていた課題を大きくまとめると、以下の2点です。

  1. 各製品ごとに個別最適化されたプロセスを統合し、生産ラインをスリム化したい
  2. プロセスを単純化することで属人性を解消し、品質を均一化したい

そのため、業務プロセスを標準化することで、上記の課題解決を図ろうと考えていました。

具体的には、ツールベンダーが提供していた標準プロセスを、自社の業務プロセスとしてそのまま採用する予定でした。

ツール導入のタイミングで、私たちも同プロジェクトに参画することになりましたが、重大な課題がありました。

現状の業務プロセス整理が不十分だったのです。

現状の業務プロセスを理解せずに標準化するリスクとは?

新しいプロセスを導入するにあたり、なぜ現状の業務プロセスの整理が重要なのでしょうか。

標準化の効果を評価するためには、現状のプロセスとの比較が不可欠だからです。実際にどのような変化が起きるのか、それが本当に改善になるのかを判断するためには、現状を正確に把握している必要があります。

例えば、10分で処理できていた工程が、標準化されたシステムでは30時間かかる場合、標準化による目的は本当に達成できたと言えるのでしょうか。

標準化のそもそもの目的は、より質の高い生産体制の確立であり、世界との競争力を維持することだったはずです。

上記は極端な例ではありますが、標準化自体が目的となってしまうことを防ぐためにも、現状のプロセスを正確に理解し、何を標準化し、何を自社の強みとして残すべきか、見極めなければなりません。

だからこそ重要になってくるのが、現状の業務プロセス(As-is:アズイズ)の整理です。

現状が整理できて初めて、目指すべき姿(To-Be:トゥービー)が描けると考えています。

現状プロセスの整理方法

先述した食品メーカーでも、まずは現状の把握から始めました。お客様の業務プロセスを理解することが目的です。

具体的には、要件定義書や業務フロー図といった資料に落とし込むためにヒアリングを実施します。その際のコツは以下の2点です。

1. キーマンを探すこと

2. 意図まで理解すること

1. キーマンを探すこと

どの会社にも業務プロセスを把握しているキーマンがいらっしゃいます。

業務プロセスの細部まで把握している方、もしくは業務プロセスを大まかに理解した上で、詳細は誰に聞けばいいかを把握している方です。

まずはキーマンの方から話を伺い、業務の全体像を把握していきます。キーマンにお話を伺った後で、より詳細を聞く必要がある場合は、その担当者にもヒアリングを行います。

2. 意図まで理解すること

全体像を把握した上で重要となるのが「意図まで理解すること」です。

例えば先述の食品メーカーでは、「高温調理工程」前に一定以上のデンプン量を感知すればセンサーで弾くという工程がありました。

私たち素人からすると目的の分からない工程ですが、重要な意図がありました。苦味を軽減できるのです。

デンプン量が多いと高温調理時に焦げができてしまい、その焦げが原因で苦味が出てしまうとのこと。そのため、デンプン量が多いものを事前に弾くことで調理時のコゲを減らしているのです。

上記以外にも様々な工夫がなされており、これら独自の工夫は、品質管理における企業の強みとなっています。

このように各工程の背景まで理解することは、標準化を進める上で非常に重要です。

なぜなら、効率化するために単に「標準化すれば良い」というわけではなく、企業独自の強みを活かしながら標準化を進める必要があるからです。

そのためヒアリング時に「なぜその工程があるのか」「この工程の背景は?」と詳細まで伺い、全工程の意図を理解することが重要です。

相手が話しやすい環境づくり

もし社内でヒアリングする機会があれば心掛けていただきたいことがあります。それは「話しやすい環境をつくる」ということです。

「業務上必要だから」という前提のもと、矢継ぎ早にこちらから聞きたいことだけを聞くと、ヒアリングの対象者はどうしても話にくいと感じてしまいます。

業務プロセスを整理することは、過去からの慣例などすぐに答えられないことも多く、決して簡単なことではありません。だからこそ、話しやすい環境で詳細を伺うことが重要です。

私自身が実践しているのは、その業務に関心を持つことです。意図を理解するためにも、工程の一つひとつに関心を持って耳を傾けています。

お話を伺うことで「もしかしたらこういう意図でこの工程が存在するのかもしれない」という閃きが生まれ、その問いかけがお客様にとっても思いがけない気づきにつながることがあります。

まとめ:標準化は魔法ではありません

標準化は、いつの間にかそれ自体が目的となりやすい言葉です。しかし本来の目的は、変化の激しい時代において競争力を高めることにあります。

そのためには、現状(As-Is)を理解し、目指すべき姿(To-Be)を明確にすることが重要です。

私たちは、競争力を高めるための標準化を実装するためにも、お客様と一緒に現状を丁寧に把握し、より良い業務プロセスを実現したいと考えています。

※本記事の内容は2024年12月の取材をもとにしています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。

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