コンサルタント記事
日本企業の仕事へのプライドが招くFit to Standardの壁|DXの現場
- 話者:鈴木 一聖
- PMOコンサルティング事業部 執行役員
「DXの現場」では、ノムラシステムコーポレーションの現役コンサルタントが、SAPの導入をはじめ、DXに20年以上携わった経験から、DXで重要となるポイントについてご紹介します。
今回のテーマは「Fit to Standard」です。Fit to Standardとは、業務内容に合わせてシステムの開発や機能を変更するのではなく、システムに業務を合わせる手法です。
海外ではFit to Standarを活用してスムーズにシステムを導入している事例が数多くありますが、日本ではつまづいてしまう企業も少なくありません。
本記事では、なぜFit to Standardは日本での受け入れが難しいのかをお伝えするとともに、日本企業に合わせた「ノムラ流Fit to Standard」の考え方についても紹介します。
なぜ日本ではFit to Standardの受け入れが難しいのか
導入コストと納期の削減、またアップデートの容易さにより、近年システムの導入はFit to Standardが標準となっています。
海外企業ではFit to Standardを活用したシステム導入事例が数多く見られますが、日本企業ではさまざまな壁に直面することも少なくありません。
その背景にあるのは、海外とは異なる日本の「文化」です。
海外企業におけるFit to Standardの受け入れ方
海外企業において、Fit to Standardの導入が進みやすい理由の一つが転職文化です。
アメリカ統計局によると、アメリカ人は生涯で12.3回の職を経験するそうです。(日本人の平均転職回数は約3回)
つまり海外では、転職に対する価値観が異なるため、導入されたシステムが自分に合わないと感じた方はすぐに転職を選択されます。そして、空いたポストには新しいシステムに適用できる人材がアサインされるため、結果的にシステムに順応できる人材だけが残ります。
ポストや業務に「人を合わせる」という考え方が一般的であるため、Fit to Standardでもスムーズにシステムが導入できるのです。
日本企業におけるFit to Standardの壁は「仕事へのプライド」
一方、日本では転職文化以外でも、海外と大きく異なる働き方をしています。
海外ではシステムの構築者と、現場業務の従事者は明確に異なります。
しかし日本では業務を最適化するために、現場でもシステムを考案・構築し、業務を最適化していることが少なくありません。
また、多少の不満があっても会社を辞める文化でもないため、現状を維持しようとする傾向もあります。
そのため、新しいシステムがFit to Standardで導入されると、現場は「これまでのシステムでよかったのに」「業務をどのように進めれば良いのだろうか」という壁に直面してしまいます。
現場のスタッフが自分たちの仕事のやり方にプライドを持っているからこそ、Fit to Standardは一筋縄ではいかないのです。
日本企業に適した「ノムラ流Fit to Standard」とは?
そこで私たちは、日本企業にもフィットする「ノムラ流Fit to Standard」を構築したいと考えています。
私たちが考える「ノムラ流Fit to Standard」は、SAPやERPなどを基盤として導入しながらも、各企業で最適なSaaS製品もピックアップすることです。
基盤システム1つで全ての業務を最適化するのは容易ではありません。だからこそ、各企業に適したSaaS製品を選択し、基盤システムと連携することで、業務に最適な形に近づけたいと考えています。
レストランでメニューを選ぶかのように、多様な選択肢の中から最適なSaaS製品をご利用いただくというイメージです。
ただし、私たちだけですべての製品を把握し、お客さまに提案するには限界があります。そこで私たちは、信頼できるパートナーやベンダー、メーカーと連携し、お客さまに最適な製品を提案できるような体制を整えています。
「ノムラ流Fit to Standard」では人材DXも実施
「ノムラ流Fit to Standard」において、人材DXも重要な要素であると考えています。人材DXとは、業務に従事されている方の意識変容と行動変容を、研修を通して促す取り組みです。
研修では「セルフリーダーシップ」つまり、自らを導く力の醸成を目的としています。
この研修の実施により、行動が変化した事例をご紹介します。
人材DXの実施で、60%に「行動変容」
2023年8月より約5ヶ月間、ある企業のマネージャーやディレクターを対象に、人材DX研修を実施しました。
以下が具体的な研修内容です。
- 「一人ひとりの自分自身に対するリーダーシップ」、「セルフコーチング」のトレーニング
- 自らを客観的に見つめ、問いを立てて会話する力を醸成し、自分自身への理解を深めるプログラム
この研修中で顕著に見られたのがマネージャーの変化です。これまで、提案にあまり積極的ではなかった方からも、「こうした方が良いのではないか」といった発言が出るようになりました。
また、アンケートでは「実際の自身の行動変容に繋がっている」と受講者の60%以上が回答しています。
変化にも対応できるマインド
人材DXで「自らを導く力」を醸成することで、「変化」にも対応できる力がつきます。
環境が変化しても自ら課題を設定し、解決策を考え、実行に移すことができるからです。
この人材DXの実施によって、組織が変化に対応しやすくなると考えています。さらに言えば、なぜ会社がこのシステムを導入しようとしているのか、その背景についても理解を得やすくなります。
常に新しいサービスが生まれ続けている現在では、変化に対応できなければ将来、電車にも乗れなくなってしまうかもしれません。
「自らを導く力」は組織だけでなく、社員一人ひとりにとっても重要なスキルとなります。
「ノムラ流Fit to Standard」の特徴は、システムの導入に際して人材DXも並行して進められる点です。
人材DXを実施することで、変化に対応できるだけでなく意見も活発となり、業務だけでなく会社全体のDX化が進められます。
お客様に誠実でありたい
このようにコンサルティングを実施するにあたり、変化に対応するマインドを育てることが重要です。
一方で、会社に変化をもたらすコンサルタントとして「お客様に誠実であること」も大切だと考えています。
お客様に対する「誠実さ」とは、必要十分な知識を提供することで、コンサルタントとしては当然の責務だと考えています。だからこそ、日々新しい知見を取り入れ続けています。
最近私が意識している言葉は「温故知新」です。
過去の成功や失敗から学ぶことは多く、私たちが今行っていることも、誰かが積み上げてきたものを、まるでパズルのように組み合わせているのではないかと感じています。
お客様がシステム導入、ひいては業務DXをスムーズに進めるために、これまでの知見をしっかりと蓄えながらお客様に寄り添い、誠実に対応したいと考えています。
まとめ:「ノムラ流Fit to Standard」でDXを推進したい
システムの導入において、近年ではFit to Standardが標準となっています。
しかし日本においては、現場の業務を最適化してきた「プライド」がFit to Standardの壁となっています。
だからこそシステムだけでなく、システムを活用する人材の「自らを導く力」の醸成も重要です。
私たちは「ノムラ流Fit to Standard」として、業務DXだけでなく、人材DXを併用することで現場からも納得されやすいFit to Standardを目指しています。
そのためにも、お客様の考えをじっくりと伺わせていただいた上で、これまでの知見をもとにお話させていだきたいと考えています。
経営課題のためにも業務をDX化したいとお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※本記事の内容は2024年6月の取材をもとにしています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
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