コンサルタント記事

DXへの抵抗感を解消する現場とのコミュニケーションとは?|DXの現場

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DXへの抵抗感を解消する現場とのコミュニケーションとは?|DXの現場
  • 石黒 俊雄
  • PMOコンサルティング事業部 マネージャー

「DXの現場」では、ノムラシステムコーポレーションの現役コンサルタントが、SAPの導入をはじめ、DXに20年以上携わった経験から、DXで重要となるポイントについて紹介します。

今回のテーマは「DX導入における現場とのコミュニケーション」です。

DXの失敗の一因に、現場の方が新規システムを使わず、従来の業務手法を継続することが挙げられます。この原因は導入側と現場とのコミュニケーション不足です。

本記事では、3か国200箇所以上の拠点にSAP S4/HANAを導入したある企業の事例をベースに、DXへの抵抗感を解消するための現場とのコミュニケーションについてお伝えします。

DX失敗の一因は現場の抵抗感

DXは企業の経営課題の解決や業務効率化を図る手段として、重要な取り組みです。

私はDXコンサルタントとして、企業のDXやIT戦略について検討し、導入をサポートする役割を担ってきました。これまで、SAP S4/HANAを活用し、経理・製造・経営企画・営業など、各領域でDXを実施してきました。

しかしDXを現場視点で見た場合、業務が効率化される一方、現場の戸惑いを招くケースは少なくありません。なぜなら、近年はDX導入に際して、業務の形を新しいシステム側に合わせて変更する「Fit to Standard」が主流になりつつあるからです。

DX導入によって既存の業務が新しい仕組みにガラッと変わるため、場合によっては現場に混乱をもたらすことがあります。

特に実務担当者は、慣れ親しんだ手法の変更を余儀なくされた上で、新しいシステムの使用方法を学ぶ必要もあります。

業務フローが変更となるストレスは現場の不満にもつながりやすく、結果、新しいシステムを導入したにもかかわらず、DXへの抵抗感から従来の手法で業務が継続されている……という状態に陥ることもあります。

だからこそDXには、現場にも納得感を持ってもらうためのコミュニケーションが必要不可欠です。

もちろんDX導入をサポートするDXコンサルタントにも、新しいシステムの導入サポートだけでなく、現場の不安を理解したり払拭することが求められます。

ではなぜ、現場の負担を伴ってまでDXを推進するのでしょうか?そのメリットを、DXとしてSAP S4/HANAを導入した事例をベースにご紹介します。

【導入事例】SAP S4/HANAを活用して世界同一プロセスやデータドリブン経営を実現

数年前、私が携わったSAP S4/HANA導入プロジェクトは、3カ国200拠点以上(製造・開発・営業など)に及ぶグローバル規模のものでした。

各国・各拠点でそれぞれのシステムが運用されており、業務プロセスやデータ形式も不均一な状態です。各国からのレポート自体はあるものの、統一的なKPIやダッシュボードはなく、グローバルでの実態把握は四半期ごとが限界だったのです。

経営判断に必要な情報収集にも時間を要し、現場の集計作業負担も大きく、さらに、基幹となる勘定コードや品目コードも統一されておらず、全社的なデータ管理も困難な状況でした。

グローバルでのシステム統一と業務の自動化による競争力強化を目指し、SAP S4/HANAの導入を決断。その導入パートナーとして、弊社がプロジェクトを支援することになりました。

本プロジェクトは、弊社スタッフ30名以上が関わる数年掛かりのプロジェクトとなったのですが、SAP S4/HANAの導入によって何が変わったのでしょうか。

データドリブン経営への転換

SAP S4/HANA導入により大きく変わったのが、企業の意思決定のあり方です。

グローバルでシステムを統一したことにより、各国の売上高や生産状況など、経営判断に必要な情報をリアルタイムで把握でき、最新のデータに基づいた判断をこれまで以上に迅速に下せるようになりました。

このように、必要なデータを必要なタイミングで確認できる体制を構築したことで、データドリブンな経営判断を実現しました。

なお、全てのデータをリアルタイムで取得しているわけではありません。例えば、貸借対照表など月次で確認すれば十分な情報は月一回の更新とし、売上データなど即時性が求められる情報のみリアルタイムで把握しています。

標準機能で対応できる範囲

今回は、200拠点以上を有するグローバル企業でしたが、SAP S4/HANAの導入にあたり、システムの標準機能を最大限活用する「Fit to Standard」アプローチを採用しています。

では、標準機能だけでどこまで業務要件を満たすことができるのでしょうか。結論から言えば、経理や管理会計、営業など、一般的な業務領域は標準機能だけでほとんどの要件を満たすことができます。

標準機能の一例として、勘定コードや品目コードの統一化という項目があります。

SAP S4/HANAには、マスター情報やコード情報がデフォルトで登録されています。この機能を活用することで、各国ごとに異なっていた勘定コードや品目コードを統一化できるのです。

標準機能で対応できない範囲では

一方、製造業における生産管理など、企業独自の業務プロセスについては、必要によってはアドオンの開発が求められます。アドオンとは、SAP S4/HANAの標準機能では対応できないお客様のニーズに対して開発する追加プログラムです。

アドオンの開発は業務プロセスへの柔軟な対応を可能にしますが、開発コストに加え、システムアップデート時の改修や動作検証も必要となります。そのため、長期的な運用負荷とコストを考慮し、アドオンは必要最小限に抑えることを基本方針としています。

場合によっては、お客様から要望があっても、相談の上、アドオン開発を見送ることもあります。これは、将来的な運用コストや保守の観点から、お客様にとってメリットが少ないことを説明し、ご納得いただいた場合です。

このように、標準機能の活用を最優先としながら、真に必要な箇所のみアドオンを開発することで、長期的に効率の良いシステム運用に努めています。

こうした提案を実現するには、お客様との丁寧なコミュニケーションが欠かせません。

また、業務内容が変更になるため、現場の方の中には、抵抗感や苦手意識を抱く方がいらっしゃることがあります。だからこそ、現場の方との密なコミュニケーションが重要だと考えています。

抵抗感があって当然だからこそ

DXコンサルタントの役割は、単なるシステム導入にとどまりません。現場を含めた意識改革を促すことも重要な仕事です。

導入後の業務変更内容やそのメリットを具体的に説明し、リモートや対面での説明会を開催します。時には、親睦を深めるための飲み会の場を設けることもあります。

経験上、現場でDXに抵抗感が発生する場合でも、それは苦手意識からくるものであって、完全な拒否反応ではありません。

メールだけでなく、直接対話の機会を積極的に設け、「どんな部分に不安があるのか」「どんなメリットがあるのか」を丁寧に説明しながら、一つ一つ理解を深めていただきます。

DXコンサルタントは、お客様と開発チームの架け橋となり、プロジェクト全体がスケジュール通りに進むよう調整するのが役割です。

私は、このような地道なコミュニケーションの積み重ねが、円滑なDX導入を実現すると考えています。

まとめ:現場との泥臭いコミュニケーションがDXのポイント 

例えばSAP S4/HANAの導入により、リアルタイムなデータドリブン経営を実現するなど、DXによって経営課題を解決することができます。

しかし、新しいシステムへの移行は、実際に使う現場の方々に戸惑いや不安をもたらすことがあります。

そのため導入と並行して、実際にシステムを活用する現場との対話を重ねることが重要です。泥臭く感じるかもしれませんが、一つひとつの不安に丁寧に向き合い、理解を深めていただくことが、DX成功への近道となると考えています。

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